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2020年 2月 12日 [ イベント ]

No.944:現代人に今を生きる意味を問う…「生誕110年 中島敦展」開催

高志の国文学館(富山市舟橋南町)で企画展「生誕110年 中島敦展」を開催中<2020年3月16日(月)まで>。虎と化した男の人間心理に迫った『山月記』、作家が南洋から書き送った書簡を素材とした『光と風と夢』などで知られる作家、中島敦の短くも起伏に富んだ人生と作品を紹介している。

●草稿、創作ノートなど貴重な資料約100点を展示


▲「生誕110年 中島敦展」(左)
▲横浜高等女学校教員時代などを解説(右)


▲細田守監督のアニメーション映画
「バケモノの子」に登場するバケモノ・
熊徹、少年・丸太の着ぐるみを展示(左)
▲漫画『文豪ストレイドッグス』の
関連資料(右)

 中島敦(1909~1942)が遺した作品は20編あまりで、著書は2冊のみ。作家生活は1年に満たず、日本語教科書編纂のために渡った南洋パラオ赴任中の1942年2月に文壇デビューを果たしたが、その年の12月に亡くなった。享年33という短い生涯だったが、『山月記(さんげつき)』、『李陵・司馬遷(りりょう・しばせん)』など、非私小説的な珠玉の作品は今も多くの人々に愛され、読み継がれている。

 本展では、中島の短くも起伏に富んだ人生を「旅」と捉え、県立神奈川近代文学館で昨年開催された特別展「中島敦展―魅せられた旅人の短い生涯」を、作品そのものと対話できるよう、再構成して紹介。

 会場は2部構成で、第1部「彷徨する魂」では、漢学者の家系に生まれ育ち、家族と穏やかに過ごした横浜時代、南洋パラオから帰国するまで、第2部「実りのとき」では、帰京後の約8カ月の作家活動、イギリスの作家・スティーヴンソンの書簡体のエッセーを素材に、植民地主義を批判した作品『光と風と夢』、妻・タカに遺した言葉、没後影響を与えた文学作品などを紹介している。草稿や創作ノート、執筆に用いた机、南洋に持っていったトランク、横浜高等女学校時代の教え子たちとの写真、南洋から日本の家族へ書き送った書簡など、貴重な資料約100点を通して生涯をたどるほか、作品を通して人間や文明社会に向けられたいまを生きる意味など根源的な問いに迫る。


▲特設コーナー「山月記の世界」

 特設コーナーでは、『山月記』、『李陵・司馬遷』、『弟子(ていし)』に焦点を当て、高志の国文学館独自の視点からテーマを掘り下げて紹介している。「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」によって、高級官吏から人喰い虎と化した男の独白を通し、人間心理の深遠に迫った『山月記』の紹介コーナーでは、フランツ・カフカの『変身』との比較、古代中国における官吏登用制度、科挙の試験内容などをパネルで解説。前漢の時代、名将として知られた李陵、「史記」編纂に没頭する司馬遷ら、人智を超えた「天」の運命に直面した男たちを描いた物語『李陵・司馬遷』の紹介コーナーでは、中島作品が中国における「天」の概念から受けた影響について触れ、「見ていないようでいて、やっぱり天は見ている。彼は粛然として懼れた。」など、作中の言葉をクローズアップしている。

●細田守監督の「バケモノの子」など、サブカルチャーにも影響


▲中島愛用の机やトランク、
将棋盤などを展示

 中島敦は生前ほとんど知られていなかったが、没後に広く読まれるようになり、高等学校の国語教科書には、夏目漱石の『こころ』、森鷗外の『舞姫』、太宰治の『走れメロス』などとともに、中島の『山月記』を採用しているものも多い。

 中島の作品に刺激を受け、新たな文学作品やサブカルチャーも生まれている。辻原登の『枯れ葉の中の青い炎』には、パラオの民話を収集する南洋庁の役人・ナカジマが登場。万城目学の『悟浄出立』では、他者と己とを比べては悩んでいた沙悟浄が小さな一歩を踏み出す様子を描いている。

 サブカルチャーでは、現代の横浜を舞台に、文豪の名を持つキャラクターたちがそれぞれの著書にちなんだ異能力で戦う漫画『文豪ストレイドッグス』(原作:朝霧カフカ、漫画:春河35、KADOKAWA)。主人公の「中島敦」は、武装探偵社に所属する太宰治に異能力「月下獣」を見出されて、探偵社の一員となる。同漫画をきっかけに中島作品に親しむ読者も生まれている。また、細田守監督(富山県上市町出身)のアニメーション映画「バケモノの子」は中島の「悟浄出世」を参考文献として挙げ、制作された。高志の国文学館のエントランスでは、『文豪ストレイドッグス』の複製原画や「バケモノの子」のバケモノ・熊徹、少年・丸太の着ぐるみを展示。家族連れでぜひ楽しんでほしい。

 「生誕110年 中島敦展」の関連講座として、3月1日(日)14:00~15:30、「中島敦文学の魅力」<講師:山下真史氏(中央大学文学部教授)>が開かれる。参加無料。定員72名(先着順)で、参加申込みが必要(TEL.076-431-5492、FAX.076-431-5490にて)。講座終了後、企画展担当者によるギャラリートーク(展示解説)もある。申込み不要だが、観覧券が必要。

 高志の国文学館では、「生きる意味を問い続けた中島敦の文学世界を紹介する企画展です。明晰な文体、豊かな想像力、世界観をぜひ感じてください」と話している。

問合せ
●高志の国文学館
TEL.076-431-5492
FAX.076-431-5490
http://www.koshibun.jp/

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