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2019年 12月 18日 [ トピックス ]

No.938:県内2カ所の円筒分水槽、国登録有形文化財に! 魚津浦の蜃気楼(御旅屋跡)、国登録記念物に

2019年11月15日(金)、国の文化審議会は、「東山円筒分水槽」(魚津市東山地内)、「赤祖父円筒分水槽」(南砺市川上中地内)を国登録有形文化財(建造物)に、「魚津浦の蜃気楼(御旅屋跡)」を国登録記念物(名勝地関係)に登録するよう答申した。気象に関する登録記念物は全国初。

●農業用水を公平に分配するための構造物


▲東山円筒分水槽(魚津市)(左)
▲赤祖父円筒分水槽(南砺市)(右)

 東山円筒分水槽(ひがしやまえんとうぶんすいそう、所有者:魚津市土地改良区)は魚津市の市街地から東方約5km、片貝川右岸に位置する。片貝川は毛勝三山を源流とし、その流路延長は27km。源流から海へ至る約2,400mの高度差に対し、流路距離が短いことから県内でも有数の急流河川として知られている。片貝川が形成した扇状地では、水の浸透率が高く、古くから夏の渇水期には水不足に悩まされてきた。この状況を解消するため、1954年、東山円筒分水槽が片貝川沿岸用水合口事業の一環として、黒谷頭首工、片貝第一発電所、貝田新円筒分水槽などと一体で建設された。

 円筒分水槽とは、農業用水などを一定の割合で正確に分配するために用いられる水利施設。サイフォンの原理(高い位置の出発点と低い位置の目的点を水で満たした管でつなぐと、汲み上げせずに目的点へ水が流れる仕組み)などを利用して円筒中心部に導水し、人の手を加えずに分水し用水に導くことができる。

 東山円筒分水槽は鉄筋コンクリート造で、面積317㎡、円の直径9.12m。片貝川の河床の地下に埋設した直径1mのヒューム管2本で左岸から右岸へ、サイフォンの原理で導水する。水は東山円筒分水槽の中心にある直径2.4mの出口から湧き出し、3つの用水に分水される。地域の水利システム近代化の歴史を物語る貴重な農業土木遺産。近年は「日本一美しい」と評され、県内外から観光客が訪れる。

●県内最小で最古の円筒分水槽


▲赤祖父円筒分水槽

 赤祖父円筒分水槽(あかそぶえんとうぶんすいそう、所有者:庄川上流用水土地改良区)は、赤祖父山(1033m)を源にする赤祖父川(小矢部川支流)扇状地の扇頂部にある。赤祖父川の上流域は、トチ、ブナ、ミズナラの原生林が広がり、藩政期に加賀藩の「御林」として伐採や立入を禁じた水持山として保護され、山麓の赤祖父水郷12カ村は赤祖父川の水を灌漑用水としてきた。しかし、集水面積が極めて狭く絶対流量が少なかったため、日照りによる旱魃被害や水争いが絶えなかった。その対策として、用水の安定供給を図るために「赤祖父溜池」を築造し、あわせて用水の効果的・公平な分配を行う赤祖父円筒分水槽が赤祖父溜池直下の当該地に1949年に築かれた。鉄筋コンクリート造で、面積は29㎡。県内最小(直径3.4m)で最古の円筒分水槽。赤祖父の溜池の水がサイフォンの原理などを利用して円筒中心から湧き上がり、一定の割合に分割されて越流することで、3つの用水に流れる仕組みになっている。砺波平野での戦後の稲作の発展を支えた貴重な農業土木遺産。南砺市を舞台にしたオリジナルアニメ「恋旅」の匠と夏子編のデートシーンにも登場する。

●蜃気楼を観測できる由緒ある名所

 魚津浦(魚津市海岸部)は、江戸時代の17世紀後半から現代まで350年以上にわたり、蜃気楼の名所として全国的に認知されてきた。蜃気楼は、温度、密度の異なる大気が層状に重なった境界部において光線が屈折することによって、遠方の風景などが伸び上がりや反転などの虚像を伴って実際と異なる形に見える自然現象。今回答申された魚津浦の蜃気楼は “上位蜃気楼”と呼ばれるタイプのもので、実際の風景の上側に伸びや反転した虚像が見える。気温や風など一定の気象条件が整わなければ観測されないまれな現象だ。例年3月下旬ごろから6月上旬ごろまでが蜃気楼の観測されやすい時期で、晴天で気温が上がり、風が穏やかな日が好適な条件とされる。


▲御旅屋跡(大町海岸公園)

 「御旅屋跡(おたやあと)」(魚津市本町)は江戸時代、加賀藩で鷹狩や参勤交代の際に藩主の宿泊や休憩のために使用された施設の跡。藩主の前田綱紀(1643~1724)、治脩(1745~1810)らが訪問・滞在し、蜃気楼に遭遇したことが記録に残されており、歴史上重要な場所となっている。『魚津古今記』(天明8(1788)年)には、綱紀が魚津で蜃気楼を実見し、“喜見城(きけんじょう)”と呼ぶよう命じたと伝える。『喜見城之図』(金沢市立玉川図書館近世史料館蔵、資料名『魚津蜃気楼之図附喜見城之図断』)は、寛政9年4月13日(今の暦換算で1797年5月9日)、治脩が御旅屋で観賞した蜃気楼を絵師に描かせた絵図。現在の御旅屋跡は都市公園「大町海岸公園」として整備され、この場所からは現在も蜃気楼を観賞することができ、名所としての価値を保っている。

 気象に関する事象の名勝地関係の登録記念物は全国初。蜃気楼発生地としての文化財的価値が認められたことで、「特別天然記念物ホタルイカ群遊海面」、「特別天然記念物魚津埋没林」と合わせて、さらなる活用が見込まれる。

問合せ
「東山円筒分水槽」、「魚津浦の蜃気楼(御旅屋跡)」について
●魚津市教育委員会 生涯学習・スポーツ課
TEL.0765-23-1045
FAX.0765-23-1052
https://www.city.uozu.toyama.jp/

「赤祖父円筒分水槽」について
●南砺市ブランド戦略部 文化・世界遺産課
TEL.0763-23-2014
FAX.0763-62-2112
https://www.city.nanto.toyama.jp/

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