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2018年 11月 7日 [ イベント ]

No.881:今を生き抜くための羅針盤、高志の国文学館「堀田善衞―世界の水平線を見つめて」展

2018年10月17日(水)から高志の国文学館(富山市舟橋南町)で開催されている高岡市伏木出身の芥川賞作家、堀田善衞(1918-1998)の生誕100年を記念した特別展「堀田善衞―世界の水平線を見つめて」が好評だ。スタジオジブリの宮崎駿監督、鈴木敏夫プロデューサーにも影響を与えた、現代を生き抜くための言葉があふれている。12月17日(月)まで。

●堀田が撮影した写真とともに、作品世界を紹介


▲展覧会ポスター
(絵:宮崎駿 ©Studio Ghibli)

 堀田善衞(ほったよしえ)は1918年、富山県射水郡伏木町(現・高岡市伏木)の廻船問屋の三男として生まれた。石川県立金沢第二中学校に進学し、3年のとき、金沢聖ヨハネ教会の司祭一家のもとに下宿し、英語を日常語として生活した。少年時代、廻船問屋で国内外からの大勢の訪問客に触れたことや英語を普段から使っていたことが、国際的な視点を養う要因になったとされる。

 慶應義塾大学入学のため上京し、二・二六事件、東京大空襲に遭遇。終戦直後の混乱期を上海で過ごした。帰国後、本格的な作家活動を開始し、1952年に『広場の孤独』、『漢奸』で芥川賞を受賞。アジア・欧州などへの取材旅行、スペイン移住など、グローバルに活動。80歳で亡くなるまで、乱世を生きる人間像を描き続けた。


▲1996年頃、自宅書斎にて(撮影:松尾俊之)
(県立神奈川近代文学館蔵)(左)
▲『路上の人』原稿
(県立神奈川近代文学館蔵)(右)

 まずはエントランスロビー。「広い世界で働こう 広い世界を知り抜こう 風はどこから吹いて来る 丘を吹く風 海の風」―堀田が作詞した伏木中学校(高岡市)の歌「風はどこから吹いて来る」の一節をスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが揮毫(きごう)した書を染め抜いたタペストリーが迎えてくれる。そして、特別展の会場へ。堀田が生きた時代と文学者としての仕事を、自身が撮影した世界各地の写真とともにクローズアップ。第一章では、堀田の原点となった高岡市伏木・金沢・東京、第二章では、作家としての方法を確立していったアジア各国との出会いを取り上げる。第三章では、歴史と人間を深く見つめる作品を生み出したヨーロッパでの暮らしと旅を紹介している。芥川賞受賞作の『広場の孤独』や鴨長明の人物像に迫る『方丈記私記』、路上という底辺から教会や王権の矛盾をのぞきみた『路上の人』など代表作の直筆原稿をはじめ、机や文房具、ギターなどの愛用品、取材旅行中に撮影した写真、移住先のスペインの暮らしを紹介する写真など、約650点を展示している。

●「路上の人」の絵コンテなど約280枚、初公開

 「堀田善衞とスタジオジブリ」のコーナーでは、若い頃から堀田作品の愛読者だった宮崎駿監督や鈴木敏夫プロデューサーとの関わりを紹介。宮崎駿監督は、「堀田さんは海原に屹立している巌のような方だった。潮に流されて自分の位置が判らなくなった時、ぼくは何度も堀田さんにたすけられた」と述べている。展示では、「ゲド戦記」などを手がけた宮崎吾朗監督による「路上の人」の絵コンテ、イメージボードなど約280枚を初公開。同作品のアニメ化は企画検討段階で中断し実現しなかったが、創造の軌跡に触れることができる。


▲「路上の人」イメージボード
(絵:宮崎吾朗 ©Studio Ghibli) 

 堀田の思想の核となることば、現代の私たちが学ぶべき言葉、次の世代を担う人たちに伝えたい言葉を選び、「堀田善衞20のことば」として紹介していることも特筆すべき点だ。また、ゴヤ版画「戦争の惨禍」、「気まぐれ」(神奈川県立近代美術館蔵)の特別展示もあるので、文学ファンのみならず、美術ファンにとってもおすすめの特別展となっている。

 会場では、池澤夏樹氏、吉岡忍氏、鹿島茂氏、大髙保二郎氏、宮崎駿氏へのインタビューをまとめた映像「時代の羅針盤 堀田善衞を語る」を上映。興味を持たれた方は、インタビューの全文を掲載した書籍『堀田善衞を読む 世界を知り抜くための羅針盤』(高志の国文学館編、集英社新書)を販売中なので、そちらもぜひご覧になってはいかがだろう。

●親子で楽しめる「風の谷のナウシカ」上映会も開催

 11月18日(日)14:00~16:00に、「風の谷のナウシカ」(スタジオジブリ 1984年 116分)の特別上映会が開催される<申込み不要、参加無料>。堀田善衞が影響を与えた点はどこなのか、思いをはせながら見てみると新たな発見があるかもしれない。

 高志の国文学館では、「宮崎吾朗監督が描いた絵コンテをはじめ、中高生にも楽しんでいただける展示となっています。11月17日(土)、18日(日)、25日(日)に学芸員によるギャラリートークを行うほか、28日(水)に一部展示入れ替えを行います。また、会期中、毎日先着200名に宮崎駿オリジナルポストカードをプレゼントいたします。ぜひご来館ください」と話している。

問合せ
●高志の国文学館
TEL.076-431-5492
FAX.076-431-5490
http://koshibun.jp/

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