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2014年 8月 12日 [ イベント ]

No.670:高志の国文学館、企画展「風の盆 深奥の心をさぐる」開催中

越中八尾おわら風の盆<9月1日(月)~3日(水)、富山市八尾町>の季節ももうすぐ。高志の国文学館(富山市舟橋南町)では、企画展「風の盆 深奥(しんおう)の心をさぐる」を開催中<10月6日(月)まで>。八尾を訪れた文学者らが残した歌詞や文章、おわら風の盆を題材にした戯曲、小説、漫画などを展示。企画展を見ると、おわら風の盆がさらに味わい深いものになる。

●文学館へ行ってから「風の盆」を見るか、「風の盆」を見てから文学館へ行くか


▲企画展「風の盆 深奥の心をさぐる」(左)
▲「越中八尾おわら風の盆」の優美な女踊り(右)

 坂の町の情緒ある町並みに、哀調を帯びた胡弓の音色と唄、編み笠に浴衣姿の女性の風雅な踊り、直線的で力強い男踊り――全国のファンを魅了してやまない「越中八尾おわら風の盆」。企画展「風の盆 深奥の心をさぐる」は、文学の視点から風の盆に迫る。「風の盆」についての展覧会は同文学館初。序章「おわら 風と水のまちへ」、第1章「文士たちのまなざし」、第2章「織りなす情の世界」の3つのコーナーからなる。

 序章「おわら 風と水のまちへ」のコーナーに入ると、富山市八尾町の諏訪町通りをイメージした空間が迎えてくれる。「八尾おわらをしみじみ聴けば むかし山風 オワラ 草の声」(佐藤惣之助)、「八尾よいとこ おわらの本場 二百十日を オワラ 出て踊る」(渡辺紫洋)など、おわらの歌詞が並ぶ。ぼんぼり風の照明や格子…。坂の町を流れるエンナカ(雪流しの用水)の水音がBGMとして流れており、涼しげな音が夏の暑さを忘れさせ、風の盆の世界へと誘ってくれる。


▲序章「おわら 風と水のまちへ」の
コーナー

 「おわら風の盆と文学 関連年表」によると、おわらの町練りが始まったといわれるのは、元禄時代。当時町外にあった町建の許可書を取り戻した祝いに、町人が3日間歌い踊ったことに由来するとされている。そして、おわらを一躍有名にしたのが大正2年、北陸線全線開通などを記念して行われた「一府八県連合共進会」だった。“小原節踊”などからなる「富山踊」が演じられたが、腰蓑を着けて海女の扮装をした芸妓が踊るなど、八尾のおわらとは別物だった、と展示では解説。このほか、県民の体力増進のために「体力つくり民謡(おわら節)体操」、納税を宣伝するために「納税宣伝おわら節」などが作られた歴史なども紹介している。

 企画展示室の壁一面には、おわらの伝統を守る11町の衣裳がずらりと並ぶ。デザインがそれぞれ異なっており、特に印象的なのが、上新町の青年男子の法被。同町出身の板画家・林秋路氏が横山大観の「夜桜」を模写してデザインした華やかなものだ。同町曳山祭神の在原業平の「業平菱(なりひらびし)」も描かれている。また、東新町の法被の背中には「対い鳩(むかいばと)」。裾には、菊菱模様。東町の法被に描かれた曳山の神紋「笹竜胆(ささりんどう)」も趣がある。

●“おわら中興の祖”といわれる川崎順二と文士たちの交流


▲(左から)
第1章「文士たちのまなざし」のコーナー、
『風の盆恋歌』の単行本などが並ぶ、
『月影ベイベ』のブース、
『月影ベイベ』の特大パネル前で写真を撮ろう

 第1章「文士たちのまなざし」のコーナーでは、おわらを愛し、医業の傍ら、私財を投じて、おわらの育成・発展に一生を捧げた川崎順二(1898~1971)と、彼の招きで八尾を訪れ、自然を眺め、おわらの踊りを楽しみ、歌詞を制作した画家、俳人、作家、民謡研究家、音楽家、歌人らをクローズアップ。昭和初期以降、急速に洗練されていったおわらの歌詞がどのような人々によって作られていったのかを手紙や歌詞、文章などを通して紹介している。

 たとえば、画家・歌人の小杉放庵は、「もしや来るかと窓押しあけて 見れば立山 オワラ 雪ばかり」など、川崎から依頼されて歌詞「八尾四季」を制作。これをもとに舞踊家・若柳吉三郎が新しい振付を考案したことで、おわらの新しい歴史が始まったという。歌人・劇作家・小説家の吉井勇は昭和20年に八尾町に疎開。翌年に刊行した歌集『流離抄』や『寒行』には滞在中の作品約700首を収めている。展示では、小杉放庵の『随筆 帰去来』や吉井勇の『流離抄』、そのほか、おわらの歌詞を制作した文士たちの貴重な直筆資料などを見ることができる。

 第2章「織りなす情の世界」では、小説家・劇作家の長谷川伸の戯曲『一本刀土俵入』や作家・五木寛之の小説『風の柩』、作家・高橋治の『風の盆恋歌』、漫画家・小玉ユキの『月影ベイベ』をクローズアップしている。歌舞伎や新国劇などの舞台でしばしば上演されている『一本刀土俵入』では、作中人物が歌うおわら節が重要な役割を果たしている。展示では、単行本や書簡などが並ぶ。『風の柩』では、おわらの演奏は「民謡のジャズ・セッション」と表現され、おわらに心血を注ぐ人々がいきいきと描かれている。『風の盆恋歌』はおわら文学の代表格ともいえる作品。おわらの踊りの美しさ、演奏の魅力、町の人々の心意気が作者ならではの視点で表現されている。展示では、直筆色紙、舞台台本、喫茶店のサイン帳などが目を引く。

 おわら風の盆をテーマにした漫画『月影ベイベ』(小学館『月刊フラワーズ』連載中)のブースでは、カラーイラストの拡大パネルや複製原画、直筆線画、直筆色紙などを展示。実際の八尾の町並み写真と漫画を比較することもできる。『月影ベイベ』は、おわらに情熱を傾ける高校生たちの青春物語。全編富山弁のセリフもユニークだ。八尾町での綿密な取材によって、情緒豊かな町並みやおわら踊りの美しさなどがリアリティーをもって描かれている。高志の国文学館のエントランスホールには、『月影ベイベ』の単行本(現在3巻)の裏表紙をつなげ、一枚の絵として制作した特大パネルがある。登場人物と一緒に記念撮影ができるのもファンにはうれしい。

●企画展関連イベントも楽しみ! ぜひ参加を


▲越中八尾おわら風の盆
(上新町)

 記念トーク「風吹ジュン×国井雅比古」が8月29日(金)、富山県教育文化会館を会場に開かれる。富山県婦負郡八尾町(現:富山市八尾町)生まれで中学2年生まで高岡市で育った女優・風吹ジュンさんと、元NHKアナウンサー・国井雅比古さんが、おわら風の盆にまつわる文学や富山の魅力について語る。また、文学講座「前田普羅 その求道の詩魂」<8月31日(日)>、「哀愁漂う八尾の街並み」<9月14日(日)>、「うたの街だよ 八尾の町は」<9月20日(土)>、おわら風の盆を題材にした文学作品の朗読とおわら公演「朗読と音楽の夕べ」<9月12日(金)>も予定されている。参加申込など、詳細は高志の国文学館のHP (http://www.koshibun.jp/)にアクセスを。

 富山市八尾町では、毎年恒例の「越中八尾おわら風の盆前夜祭」(おわら風の盆行事運営委員会・越中八尾観光協会 TEL076-454-5138)が8月20日(水)~30日(土)に開催される。前夜祭では11町のうち1町(土・日曜は2町)で毎晩輪踊りや町流しが行われる(20:00~22:00、雨天中止)。今年は、20日(水)今町、21日(木)上新町、22日(金)福島、23日(土)諏訪町・上新町、24日(日)西町・鏡町、25日(月)鏡町、26日(火)天満町、27日(水)東新町、28日(木)東町、29日(金)下新町、30日(土)西新町・東新町となっている。そして9月、秋風に誘われておわら風の盆本番へ。各町の踊り場を訪れ、踊りや唄、囃子、胡弓、三味線の音色を楽しみたい。奥深く、洗練された抒情と優雅さが心に染みていくだろう。

 高志の国文学館では、「大正末期から昭和にかけて、当時の中央文壇や芸術文化界で活躍していた大勢の文学者や芸術家らが、おわらの歌詞づくりなどに関わっていた。その後、おわら風の盆は多彩なジャンルの文学作品に素材を提供し、その魅力を描いた作品が数多く生まれている。深く風土に根ざしたおわら風の盆の文学の魅力に触れてほしい」と話している。

問い合わせ
●高志の国文学館
TEL.076-431-5492
FAX.076-431-5490
http://www.koshibun.jp/

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