高岡伝統産業青年会の創立40周年記念事業として、高岡を舞台にした短編映画「すず」が製作された。地場産業の鋳物職人の跡継ぎ問題をテーマに掲げたヒューマンドラマ＆コメディ。高岡の街や伝統産業の魅力を発信する。公式ウェブサイト(http://suzu-takaoka.com/)でカラー版、モノクロ・海外版を公開中。高岡鋳物発祥の地・金屋町や路面電車・万葉線、庄川など高岡の風景が次々に映し出される。ぜひ、アクセスを。

●高岡伝統産業青年会、ものづくりの魅力発信

　短編映画「すず」＜製作：高岡伝統産業青年会、ドローイングアンドマニュアル(株)＞は、高岡の伝統産業の世界に生きる職人の気概や悩み、地域を愛する人たちの思いを描いた、笑いあり、感動ありの作品だ。NHK大河ドラマ「八重の桜」のオープニング映像などで知られる映像作家の菱川勢一さん(東京都)が脚本・監督を務めた。上映時間は23分。

　東京の大学で知り合って結婚し、故郷の高岡に戻った新森タカシ(成元一真さん)と妻のすず(村上真希さん)が主人公。タカシは鋳物工場の家に生まれたが、父親の死後も家業を継がずに地方CMのディレクターの仕事をしている。すずはなんの縁もなかった高岡にやってきて、夫を支えながらシンガーソングライターを目指している。ある日、「伝統産業は時代遅れ」と言うタカシに、「伝統を継ぐのも素敵だよ」とすず。タカシの親友で鋳物職人のコージ(青井一暁さん)が脳梗塞で倒れたことから、タカシはある決意をする―。

　夢と現実のはざまで葛藤する若い夫婦の姿や伝統的なものづくりへの不安、仲間たちと共に頑張ることの大切さがリアルに、またユーモアを交えて描かれている。フィクションだが、ドキュメンタリータッチでもあり、独特の空気感が映像から伝わってくる。

　高岡伝統産業青年会のものづくりにかける熱意に打たれ、監督を引き受けた菱川勢一さんは、「メイキング　すずのつくりかた」の中で「鋳造の様子などを映像として残しておく必要があると感じた。映像を見た若い人たちが自分たちも鋳物をやってみたいと思えるきっかけになれば。映画づくりを通して、地域の人たちがみんなで一つのことをやるということが大きな目的だった。次の世代が伝統産業、伝統工芸をうまくアレンジして、どんどん新しくしていってくれるように。そんなことがこの映画をきっかけに始まればいい」と語っている。

●高岡の美しい風景が織り成す映像

　高岡鋳物発祥の地・金屋町の家並みや石畳、路面電車・万葉線、庄川など、高岡の風景が随所に登場する。青空に浮かぶ白い雲、黄金色の空など美しいシーンも印象的。自然光を生かしたナチュラルな映像も目にやさしい。11月29日には、海外版「すずmonochrome(モノクローム)も公式ウェブサイトで公開がスタートした。全編モノクロ、英語字幕付。海外の映画祭などへの出品も予定されている。海外でどう評価されるか楽しみだ。

　映画には、高岡伝統産業青年会のメンバーも出演している。青年会は高岡銅器や高岡漆器、仏具の製造・販売などに携わる若手を中心に、昭和49年(1974)に発足。現在49名が、伝統技術の向上と継承、伝統産業の振興を図ることなどを目的に活動している。

　“ものづくりのまち”としての高岡の歴史を振り返ってみると、加賀藩二代藩主前田利長が慶長14年(1609)、高岡の町を開いた際に、町発展のための産業振興策として、城下に鋳物師を呼び寄せたことから鋳物の技術が根づいた。その技術は高岡銅器へと発展し、現在、高岡では茶器や花器、仏具から梵鐘（ぼんしょう）まで数多くの製品が製造、販売されている。また、高岡漆器では、立体感のある彫刻塗、錆絵（さびえ）・箔絵（はくえ）・象嵌（ぞうがん）などを用いた勇助塗（ゆうすけぬり）、貝特有の優雅な輝きを放つ青貝塗（あおがいぬり）が代表的な技法だ。

　高岡伝統産業青年会の折橋祐紀会長は、「映画名の“すず”は主人公の名前だが、曲がる金属として近年注目の“すず”を象徴させている。映画をウェブサイトで鑑賞したあとは、実際に高岡を訪れ、伝統産業の魅力に触れてほしい。ウェブサイトには、富山大学芸術文化学部の学生によるロケ地紹介もあるので旅の参考に」と話している。