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2013年 5月 8日 [ イベント ]

No.605-2:世界でも稀有、立山の多様性を学芸員の視点から

日本初の氷河認定、弥陀ヶ原・大日平のラムサール条約湿地登録で国内外からの注目度がアップした立山連峰。立山カルデラ砂防博物館では、特別展「立山へ行こう!―より楽しむコツ、博物館が教えます―」<7月21日(日)まで>、特別展 柳木昭信写真展「地球・氷河圏」<5月26日(日)まで>を開催中。雄大な景観を楽しむだけでなく、成り立ちや自然環境などを理解することで、立山の観光やトレッキングの感動がより深まる――。

●立山を楽しむ5つの要素、キーワードとは


▲特別展「立山へ行こう!―より楽しむ
コツ、博物館が教えます―」

 4月に全線開通し、この季節ならではの雪の大谷に大勢の観光客が訪れている立山黒部アルペンルート。富山県側の起点・立山駅のすぐそばにある立山カルデラ砂防博物館で開催中の特別展「立山へ行こう!―より楽しむコツ、博物館が教えます―」では、アルペンルート沿いの地形や火山、動植物などのとっておきの観察ポイントをパネル、模型、映像で紹介。特別展は入場無料となっているので気軽に観覧してほしい。

 同展では、立山を楽しむ5つの要素として、“上昇する山”、“火の山”、“氷の山”、“水の山”、“生命の山”を挙げ、世界でも稀有といえる自然の多様性や魅力を伝えている。“上昇する山”のコーナーでは、3,000m級の峰々がそびえる立山をつくりだしたのは、飛騨山脈の隆起と紹介。夏の立山、稜線の景観で印象的な白い岩肌の花崗岩がそれを物語っている。100万年以上の歳月をかけて地表に出現したもので、隆起活動は現在も静かに続いているというから驚きだ。

 “火の山”では、美女平から弥陀ヶ原、室堂にかけての一帯が約22万年前から活動を始めた立山火山の噴出物に覆われていると紹介。最も広範囲に分布しているのが、約10万年前の火砕流堆積物である溶結凝灰岩で、弥陀ヶ原台地や、称名滝が流れ落ちる岩壁もこの岩で構成されている。立山信仰ゆかりの地・玉殿の岩屋や室堂山登山道で見られる板状節理(岩石の規則的な割れ目)などについても学べる。

 立山の降水量や水の侵食力を解説した“水の山”では、室堂平の年間降水量が約6,000mmと国内でも有数の量に達していることがわかる。また、称名滝は約7万年前、現在の立山町千寿ケ原(博物館の位置)付近に誕生し、水の力が岩盤を削り、約7km上流へと移動したと解説。平均すると、1年で数cmの後退になるというから、すさまじい水の力に驚嘆せずにはいられない。

 “氷の山”では、昨年4月に氷河と確認された立山連峰の雄山東側斜面にある「御前沢(ごぜんざわ)雪渓」、剱岳北方稜線の「三ノ窓雪渓」、「小窓雪渓」をクローズアップ。重力によって長期間にわたり連続して流動する雪氷体(雪と氷の大きな塊)として定義されている氷河と、万年雪との共通点、異なる点などもまとめている。

 “生命の山”では、ライチョウの生態を取り上げている。5~6月はライチョウの恋の季節で、卵を温めるメスを守ろうと岩の上で縄張りを見張るオスの姿が目立つようだ。ライチョウは天気が悪いときこそ活発に活動するというから、山の天気が曇っていてもがっかりせずにライチョウを観察してほしい。

●生き物のように流れ下る氷河の荘厳さ


▲特別展 柳木昭信写真展
「地球・氷河圏」(左)
▲立山連峰の三ノ窓雪渓、
御前沢雪渓(氷河)の写真(右)

 「地球・氷河圏」は世界各地の氷河と立山連峰の氷河に焦点を当てた写真展。富山県出身の写真家、柳木昭信氏が撮影したアラスカ、グリーンランド、アイスランド、ヨーロッパアルプス、パタゴニア、ヒマラヤ、ロシア、そして立山連峰の写真約50点を通して、壮大なスケールの氷河の世界、自然の神秘に触れることができる。

 プリンス・ウィリアム湾に流れ込むコロンビア氷河を上空から撮影した作品「アラスカ、コロンビア氷河」は、北米大陸最高峰のマッキンリー山などを背後に従え、海へと続く大氷河のダイナミックな景観に圧倒される。巨大なクレバスに大自然の厳しさも感じられる。「モレノ氷河」はアルゼンチン・パタゴニアにある氷河。高さ30mほどの氷河が海に崩れ落ちるシーンがとらえられており、太陽光線によって青く煌く氷河氷の神秘的な色合いが印象的だ。「キリマンジャロの頂上氷河」は青い空と堆積する氷河の層、黒い大地に広がる雪の造形が心に迫る。「南部氷床のアイスキャップに月の出」はグリーンランドの大地をおおう氷と雪、月、山がハーモニーを奏でている。「イルリサットのアイスフィヨルド」はグリーンランドの海に浮かぶ氷河を撮影した一枚。海面下に巨大な氷河があるというからイメージを膨らませてみてほしい。

 立山連峰の氷河「御前沢雪渓」、「三ノ窓雪渓」の写真は、ゴツゴツとした岩肌と氷河が神秘的な雰囲気を醸し出している。「昨年、日本に無いといわれてきた氷河が立山で発見されたというニュースが届きました。立山も、これまで訪ねた世界各地の氷河を抱く山の仲間入りをしたのだと大変嬉しく思いました」と、柳木氏はメッセージを寄せている。

 立山連峰では、立山カルデラ砂防博物館の調査結果から御前沢雪渓、三ノ窓雪渓、小窓雪渓の3雪渓にある氷体が氷河として日本雪氷学会から認められている。このほか、剱岳西側の「池の谷」にある氷体も氷河の可能性が高いとして、現在、調査が進められている。

 立山カルデラ砂防博物館では、「立山連峰は極東地域の中緯度にあり、気温も高めですが、降雪量が膨大なことや雪崩を起こす急峻な地形も関係して、氷河が存在しています。フィールドウォッチングとして、8月25日(日)に<立山の氷河眺望>を企画しています。氷河の痕跡を訪ねたり、雄山山頂まで登山したりします。ご参加ください。詳しくは博物館へお尋ねください」と話している。

問い合わせ
●立山カルデラ砂防博物館
TEL.076-481-1160
FAX.076-482-9101
http://www.tatecal.or.jp

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