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2013年 1月 30日 [ トピックス ]

No.591-1:明治の文豪、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)と富山の意外なつながり

『怪談』、『神國日本』などの著作で知られる明治の文豪、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン:1850~1904)と富山に意外なつながりがあることをご存知だろうか。ハーンの執筆原稿や全蔵書が、富山大学附属図書館の「ヘルン文庫」に収められているのだ。富山大学生協の学生食堂では、ハーンがレシピを書き残した「ガンボ」と呼ばれるスープ料理をアレンジした「ヘルンランチ」を提供している。富山とハーンの意外なつながりを紹介。

▲重厚な書棚に蔵書が並ぶ「ヘルン文庫」

●富山大学附属図書館「ヘルン文庫」にハーンの蔵書

 『怪談』、『神國日本』などの著作で知られる明治の文豪、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン:1850~1904)と富山に意外なつながりがあることをご存知だろうか。ハーンの執筆原稿や全蔵書が、富山大学附属図書館の「ヘルン文庫」に収められているのだ。

 ハーンは1850年、ギリシャのレフカダ島で生まれた。父はアイルランド出身のイギリス人軍医、母はギリシャ人。父の故郷、アイルランドからイギリス、フランス、アメリカへ渡り、苦労の末にジャーナリストに。ニューオリンズで開催された万国博覧会がきっかけで日本に関心を持ち、紀行文を書くために1890年に来日。その後、英語・英文学の教師として松江、熊本、東京帝国大学、早稲田大学で教鞭をとりながら、文筆活動を行った。

 松江時代、一生の伴侶となる小泉セツと出会う。セツは松江や出雲などの神話や伝説をハーンに伝えるなどして、活動の大きな支えとなった。ハーンはセツや4人の子どもたちの将来を思い、1896年に日本に帰化して「小泉八雲」と名乗った。明治の日本と文化、「耳なし芳一」、「雪女」などの怪談、やさしさや思いやりにあふれた日本人の深層心理を世界に紹介し、アインシュタインやチャップリンなど多くの読者が日本ファンになったとされる。

 さて、ハーンは富山に来たことはないが、なぜ文庫があるのか。1904年にハーンが亡くなってから、蔵書は東京の小泉家に置かれていたが、関東大震災などがあったことから、小泉家では蔵書を安全に保管できる大学へ一括譲渡したいという思いがあった。ちょうどその頃、富山では富山大学の前身となる旧制富山高等学校の創設準備が進められており、初代校長となる南日恒太郎氏の実弟・田部隆次氏がハーンの東京帝大での教え子であり、研究家でもあったことから、譲渡の話が進んだ。南日校長は同校創設のために資金を富山県に寄付した馬場家(北前船交易で財を築いた資産家)の馬場はる氏に蔵書の購入資金の援助を懇願する。その結果、馬場家は蔵書を買い取り、1924年の開校記念に寄贈。富山大学へと受け継がれることになる。東京から富山への蔵書の運搬には焼失などを恐れて消防夫5名がその任に当たった。今年は蔵書が富山に来て90年目にあたる。

●ハーンの知の泉を見学しよう

 富山大学附属図書館・中央図書館5階にあるヘルン文庫(※セツ夫人らから「ヘルンさん」と呼ばれていたことに由来)。ハーンがアメリカや日本で集めた洋書、和漢書、執筆原稿など、蔵書2,435冊が収蔵されている。ジャンルは、欧米の文学作品、歴史、自然科学など多岐にわたる。「耳なし芳一」の基となった江戸時代の通俗本『臥遊奇談』(一夕散人編著)、妖怪を題材にした狂歌と妖怪画を描いた絵本で、「越中立山」や「蜃気楼」を兼題とした狂歌もある『狂歌百物語』(天明老人撰)、東京帝大での教え子だった土井晩翠が翻訳してハーンに贈った『英雄論』(カーライル著)など、貴重な蔵書がガラスケース越しに鑑賞できる。日本の家族制度、宗教、日本固有の精神を分析してまとめたハーンの絶筆の書『神國日本』の原稿からは、ペンを走らせる音や息遣いが聞こえてきそうだ。蔵書のほか、ハーンに関する研究文献や、ハーンの英文に浮世絵師が絵を添えた「ちりめん本」なども文庫内に並ぶ。

 文庫の入り口には、生誕の地・ギリシャから晩年の東京までの年譜が紹介されており、ハーンの足跡を辿ることができる。ヨーロッパからアメリカ、日本へ、いずれも片道切符。新天地の文化を愛し、進取果敢に生きようとする強い意志が感じられる。

 同大学附属図書館では、「ハーンは日本で『知られざる日本の面影』、『東の国から』、『仏の畑の落ち穂』など数多くの著作を残している。文学者、民俗学者、文芸評論家と多才で、よく知られている『怪談』は作品の一部。ヘルン文庫は、ハーンの知の泉ともいえる貴重な財産。毎月第2・3・4水曜(13:00~16:00)に一般公開しており、ボランティアによる解説も行っている。ハーンの蔵書は1800年代のものが多く、劣化が進んでいるため、手に取ることはできないが、必要な場合はマイクロフィルムや図書館ホームページから閲覧できるものもある」と話している。

●エスニックな味わいの「ガンボ」

 ハーンの著作『ラ・キュイジーヌ・クレオール(クレオール料理)』には、スープ料理「ガンボ」の記載がある。ハーンが新聞記者時代を過ごしたアメリカ・ルイジアナ州の郷土料理で、魚介類や鶏肉、オクラなどの野菜を香辛料とともに煮込んで作る。食べ方は、カレーライスのようにご飯にかける。

 富山大学・五福キャンパスの学生食堂では、この「ガンボ」と呼ばれるスープ料理をアレンジした「ヘルンランチ」を提供している。ヘルン文庫を研究するマリ・クリスティーヌ富山大学客員特別研究員が「ヘルン文庫にちなんだガンボ料理を学食で提供してはどうか」と提案し、昨年5月、同大学生協がハーンの著作に書かれたレシピを基に再現したメニューからスタートした。

 このほどもとのレシピに改良が加えられ、レトルト(食品メーカー製造)が完成し、学生食堂で提供が始まった。エビやアサリの風味、タマネギの甘み、エスニックな味わいが口いっぱいに広がる。県産のタマネギを使用しており、地産地消にも貢献できると期待されている。

 同大学生協では、「ハーンがレシピをまとめたガンボ料理。深い味わいで、学生からの評判もいい。食を通じて、ハーンやヘルン文庫への関心が高まればうれしい」と話している。


▲入口には、ハーンの年譜や写真パネルを展示▲ヘルンランチ
問い合わせ 「ヘルン文庫」について
●富山大学附属図書館
TEL.076-445-6895
FAX.076-445-6902
http://www.lib.u-toyama.ac.jp

「ヘルンランチ」について
●富山大学生活協同組合
TEL.076-431-4249
FAX.076-431-5008
http://www.coop.u-toyama.ac.jp

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