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2012年 5月 16日 [ トピックス ]

No.556-1:イタイイタイ病の教訓を後世に―富山県立イタイイタイ病資料館、開館

富山県立イタイイタイ病資料館が富山市友杉のとやま健康パーク内にこのほど開館した。日本の四大公害病の一つ、イタイイタイ病に関する貴重な資料や教訓を後世に継承する資料館。展示室には、「イタイイタイ病の発生と被害の実態」、「美しい水と大地を取り戻してきた環境被害対策」など6つのコーナーがあり、イタイイタイ病を時間の流れに沿って、ジオラマや映像、絵本などで紹介する。

▲「イタイイタイ病の発生と被害の実態」のコーナー

●美しい水と豊かな大地を未来へ! 未来指向型の資料館

 富山県立イタイイタイ病資料館が富山市友杉のとやま健康パーク内にこのほど開館した。日本の四大公害病の一つ、イタイイタイ病に関する貴重な資料や教訓を後世に継承する資料館だ。“イタイイタイ病の恐ろしさ”を知り、“克服の歴史”を学び、県民一人ひとりが“環境と健康を大切にするライフスタイルの確立や地域づくり”に取り組むことにつなげる未来指向型の資料館を目指している。

 イタイイタイ病とは、富山平野の中央部を流れる神通川の流域で起きた公害病。上流の神岡鉱山(岐阜県飛騨市)から排出されたカドミウムが神通川の水や流域の農地を汚染し、川水や米などを通じて体内に入ることで引き起こされた。カドミウムの慢性中毒による腎障害と骨障害、なかでも骨粗しょう症を伴う骨軟化症が特徴。「イタイ、イタイ」と患者が泣き叫ぶことからこの名が付いたとされる。

 大地を潤し、多くの実りをもたらしてきた神通川。水道が普及する以前、流域の人々は川の水を飲み水や生活用水として使うなど、神通川と深く関わりながら暮らしていた。しかし、明治時代の中頃から、稲の生育不良などの異変が現れはじめた。大正時代に入ると、中下流域に住む35歳から50歳くらいの女性に全身が激しく痛む、原因不明の病気が発生。最初は腰や肩、ひざなどの痛みからはじまり、病気が進行すると、少し動いただけでも骨折し、動けなくなって寝込んでしまうようになり、奇病として、流域住民に恐れられた。「胸に針が千本も二千本もさすようにいたい」、「顔にハエが止まっても追い払うこともできなかった」などと患者は痛みや苦しみをうったえたという。昭和41年に健康被害の解決と救済を求めて、被害者住民が「イタイイタイ病対策協議会」を結成。昭和43年、神岡鉱山を操業する三井金属鉱業を提訴した。同年、国は神岡鉱山から排出されたカドミウムが原因であるとする見解を発表し、イタイイタイ病は日本で初めて公害病として認められた。

 昭和47年、2審判決でも住民側が勝訴し、直ちに、被害者の賠償のほか、公害防止や汚染土壌の復元に関する3つの取決めを原因企業と締結。これらに基づき、神岡鉱山への立入調査などの「発生源対策」、カドミウムで汚染された水田の土壌復元工事などの「汚染農地対策」(平成24年3月工事完了)が長年にわたって行われ、神通川とその流域はかつての美しい姿を取り戻した。

 患者と認定された人は196名で、そのうち生存者は4名(平成24年4月末現在)。当時の様子を伝える人は少なくなりつつあり、関係資料の散逸なども懸念されたことから資料館の設置が決まった。

●次代を担う子どもたちの“学び”に期待

 資料館1階の展示室は、「神通川とともにあった暮らしの原風景」、「イタイイタイ病の発生と被害の実態」、「原因究明、健康と暮らしを守る動き」、「流域住民の健康を守り、患者を救う」、「美しい水と大地を取り戻してきた環境被害対策」、「環境・エネルギー先端県を目指して」の6つのコーナーに分かれており、昔の暮らし、被害の発生から美しい環境を取り戻した現在までの歴史を、時間の流れに沿って紹介している。

 ジオラマ(小型模型)に映像や絵本を組み合わせるなど、わかりやすく紹介する工夫がなされ、子どもから大人まで、イタイイタイ病について興味を持って学べる。「火葬したときに、骨が紙の燃えたようにくしゃくしゃになっていた」、「診察しようと、胸をたたくと、わずかな力で肋骨が折れてしまうのです」と話す関係者の映像からも患者の苦しみが伝わってくる。正常な骨と骨粗しょう症の骨の模型の持ち比べや、骨軟化症の骨の拡大写真を見ながら症状を理解できる展示もある。大型スクリーンによる体感学習シアターでは、神岡鉱山への立入調査や、美田を取り戻した土壌復元工事の様子を臨場感あふれる演出で紹介している。

 2階には、イタイイタイ病や環境、健康などに関する図書や映像を備えた資料閲覧室、団体を対象にしたガイダンスや語り部講話などに利用できる交流学習ルームがある。

 展示室の音声ガイドや展示ガイドブックは日本語、英語、中国語、韓国語、ロシア語の5カ国語に対応。ホームページも5カ国語で国内外に情報を発信しているから確認したい。

 開館初日から大勢の方々が訪れ、イタイイタイ病に関する理解を深めている。展示を手がかりに問題に解答しながら学習できる「子どもワークシート」を片手に熱心に語り合う親子連れの姿が印象的だ。

 県立イタイイタイ病資料館では、「イタイイタイ病のような悲惨な公害が二度と繰り返されることのないよう、貴重な資料や教訓を後世にしっかりと伝えていきたい。今年から、公害を学ぶ小学校5年生全員に、資料館の事前学習にも使える副読本『よみがえった美しい水と豊かな大地 ~イタイイタイ病に学ぶ』を配布する。次代を担う県内の子どもたちには、資料館でイタイイタイ病のことを正しく知ってもらい、環境と健康を大切に守っていってほしい」と話している。

▲体感学習シアター


問い合わせ
●富山県立イタイイタイ病資料館
TEL.076-428-0830
FAX.076-428-0833
http://itaiitai-dis.jp

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